オリオンの空は燃えている

昭和が生んだ怪物はむらケンジのほのぼの日常系ブログ

口からでまかせで口先でかませ

会話には機微というものがある。しかし、ほとんどの人はそれを知らず、使うこともない。そしてそれを感じることもできないし、知ろうともしない。

私の職場に気難しい上司がいる。言ってる内容も支離滅裂で、かなりの気分屋。しかもすぐカッとなるタイプで、つまらない理由で若手や後輩が怒られているのをよく見かける。若手や後輩からしてみれば、恐ろしくて、腹立たしい存在である。そう、若手や後輩にとってはね。

そんな上司と、私は外回りをすることがよくある。

半日以上、車の中で二人っきりで過ごすことになるのだが、帰ってくると、後輩たちが決まってニヤニヤしながら聞いてくる。「今日はどうでしたか」。ははん。こいつらが聞きたいことはわかってる。"気難しい上司と一緒でさぞかし怒られたでしょう" これが言いたいのだろう。

アホか。

こういった手合いに怒られたり、指導されたり、機嫌を悪くされたりするのはマヌケだけ。実際、私とその上司の外回りは終始和やかで、怒られたことなぞ一度たりともない。場合によっては、ニッコニコでアイスを奢ってもらったりするほどだ。

通常、外回りは二人体制だが、これに+1名、後輩がひっついてくることがある。終始穏やかな上司と私のやり取りを見て、後部座席から後輩はいつも不思議に思うそうである。"なんで今日はこんなに機嫌がいいのだろう"と。

アホか。いっつもそうだっつうの。

「それははむらさんが気に入られてるからでしょ」と反論してくるやつがいるけど、ばかやろう。なんで気に入られる位置まで自分を持ってこれないのか。会話というのは、言葉の応酬だけじゃない。場のセッティングや雰囲気、必勝のパターンへの持っていき方。様々な要素が複雑に絡んでいる。

これが如実に表れたのが休日出勤の件だ。

怠惰な連中は、社内のある検定で不合格になっており、その再検定の日が某金曜日だった。不幸にも不合格の烙印を押された何人かは、その某金曜日が勤務上、休日となっていた。しかも再検定の日は動かせず、休日に出勤してこなければならない事態になっていた。

検定をする側だった私はこれは不憫に思い、わざわざ例の上司に調整を行っていた。検定も大事だが、わざわざ休みの日をつぶしてまで受けることはない。

休日出勤させた上で、代休の処置を取らせてもらい、別の日に休日をもらえるように、上司の確約をもらった。もともと再検定の日は決まっており、上司の勤務割表の作成ミスに近かったので、了解を得るのは容易いことだった。

ちなみに、検定に落ちるのは仕事をナメまくってるレベル。

そして、上司から代休処置を取る許可を受けた旨を受験者の後輩に伝えると、「あ、そうなんすか」みたいなマヌケな返事が。こいつらは、私が黙っていたら休日にわざわざ再検定を受けにくるつもりだったのか。まぁそれならそれでいいんだけど。

代休の処置(書類の申請など)は私がやる義理はないので、直接上司にその旨を伝え、自分でやるようにその後輩に言ってやった。なんてやさしいんだ。

さっそく隣の部屋の上司の元へ後輩が話しをつけに行った。

すると、隣の部屋から怒号が飛んできた。

 「検定落ちてるんだから、休日だろうがなんだろうが再検定を受けるのは当たり前だろうが!!」どうやら、話のとっかかりでいきなり「休みを取らせてください」というような言い方をしたようである。言い方を間違えることはよくある。それ自体は決して間違えじゃない。が、後輩の口からとんでもない一言が。

「いや、だってはむらさんが…」

おいおい。そこで私の名前を出すの。いや、いいんだよ。別に私のせいにしてくれていいんだよ。でもそんなこと言ったら逆効果。「そもそも、なんではむらがお前の休みのために調整にきてるんだ!!  お前のことだろうが!!」と、当然、上司の火に油をそそぐ結果に。

そして、恨めしい目で私を見る後輩。

サッカーでは、ちょっと蹴ってゴールに流し込むだけのラストパスをプレゼントパスという。この後輩は、私のプレゼントパスを盛大に空振り、事もあろうことか、私のパスが悪いと言い出したのだ(口には出してないが)。

まぁ、後輩はこってりとしぼられた後、なんとか代休をもらうことができた。

その後輩は、文句をぶつぶつ言っていた。私はそんな後輩を見て、心底哀れに思うとともに、そんな哀れみから無理に後輩を救おうとせずに、十分に哀れみに打ちひしがれることこそが後輩のためになるのだろうと確信した。これから人生辛いと思うけど、がんばれよ。

付け焼刃や生兵法は大怪我の元という慣用句やことわざがあるが、私のセンセーションが、かえって後輩や他人のためにならないということが今回よくわかった。私は、私を私のためだけに使おうと強く思った。

そして、私は何も痛まない。